宗教学の世界に触れたい人のためにおすすめの読みやすい3冊
大学院まで進んで専攻していたのが「宗教学」だったと答えると、
十中八九怪しまれますが、そもそも、世間一般の人には
「宗教学」という学問が何なのかすらよくわかっていない人が多いように思います。
まず、「神学(Theology)」と「宗教学(Religious Studies)」の
違いを説明する必要があるのですが、
本当に本当に端的に述べるのであれば、
「神」や「救い」とはなにかを問うのが神学で、
「神」や「救い」という概念の下、人間が何をしているのかを考えるのが宗教学。
そんな感じだと思います。
(そんな単純じゃないだろっていうツッコミはあるかと思われますが、まぁ、許してください。)
よく、神学は自己弁証で宗教学は社会現象として「宗教」というものを扱うなんても言ったりします。
なんでそんな勉強をしていたのか?
もしかして家が牧師や坊さんなのか?
そんなことをよく聞かれますが、
理由は本当に単純で、中二病をこじらせすぎたのと、
人が知らないものを知っているという優越感だけで生きていたい
オカルトサブカルクソ野郎だったからとかそんな感じです。
僕自身は、無宗教、といいたいところですが、
どちらかというと、どれもそれなりに真理はあるという
多元主義(religious pluralism)だと自分では認識していますが、
あくまで認識であって外から見たら違うかもしれません。
あと、結局のところ、「宗教学」というのは、
突き詰めていくとそれ単体で成り立つわけではなく、
頭に「宗教」とつく「~学」の総体で構成されるものであり、
「経済学」や「地理学」、はたまた「観光学」なんかも巻き込んで、
いろんな定規で「宗教」という現象を切り取ろうとする
学問なわけです。
まぁ、僕みたいなお情けで修士を出させてもらった人間が
説明したところで、言葉足らずで恥をかくだけだと思うので、
自分が好きな本をいくつかリストアップすることで、
みなさんにもこのマニアックな学問の世界にすこしでも
足を踏み入れていただけたらと思います。
近代化の流れの中で従来の救済観が機能を失いつつあったキリスト教と
沖縄の民間信仰が接触したことで見せた独自の宗教現象の展開を調査した名著。
勿論、ここで取り上げられる教団の信仰が真理であるか否かを問うというものではなく、
何故その信仰は従来のものと違う形で現われたのか、
ということを追った一冊。残念ながら絶版。
同著者の『近代日本の民衆キリスト教-初期ホーリネスの宗教学的研究-』も
とてもおもしろいのでおすすめ。
②マーク・マリンズ『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』
「キリスト教」という言葉によって線引きされる教団は
数多く存在しますが、けっきょくのところそれは、自己認識として
「自分たちはキリスト教である」と信じている集団のこととも言い換えられます。
この本で取り上げられている教団は、日本人の創始者によって作られた
独自の「キリスト教団」であるり、
「これはキリスト教って言えるのだろうか・・・」という
独自の発展を見せた教団が載っていますが、
しかし、それと同時に、私たちがどのような尺度で
宗教というものの連続性を切り取っているかについて考えさせられます。
訳がちょっと微妙なところもありますが、オリジナル版がよみやすいので
英語がある程度できるのであればそちらをおすすめいたします。
③森本あんり『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』
今回紹介した本の中では一番新しい1冊。
最近よく目にしますが、誤用されやすい「反知性主義」という概念。
要するに、単に無教養ということを指すのではなく、
知性と権力の結びつきに対して抱く反感のことなのですが、
そのようにラディカルな平等を求める感情と
アメリカのキリスト教の歴史を関連付けて分析した一冊です。
ただ、この帯を書いた出版社の人もよくわかっていないのか、
「反知性主義」という概念にその是非は含まれていないはずなのに、
「今、世界で最も危険なイデオロギーの根源!」と、
ネガティブなものとして描いているのがどうなんだろうなぁ・・・と思います。
以上、おすすめの三冊ですが、
「そんなんよりまず、フレーザーやらエリアーデやらデュルケームやらを読め」
という声が聞こえてきそうですが、
まずは、単純に読みやすく、且つ、
私たちが普段生活する中で、なかなか考えることが無い
「宗教」という概念の線引きをずらす作業としては
いいのではないかと考えておりますので、許してください。
あと、今回のチョイスはかなり自分の専門領域に偏っており、
仏教やらイスラームやらについてはおもいっきり抜け落ちてますが、
あしからず。